三 介護保険の理念

 『この制度が生まれた理由』は次のように表現されている。

『寝たきりや痴呆の高齢者の急増、家庭の介護機能などの変化などから高齢者介護問題が老後の最大の不安要因となってきている。

 しかし、高齢者介護に関する、現行の制度においては、@福祉サービスについては、行政がサービスの種類、提供機関を決めるため、利用者がサービスの選択を自由に行えない。A老人福祉と老人医療に分立しており、利用手続きや利用者負担が不均衡であり、総合的、効率的なサービス利用ができない。B老人医療制度についても「介護を主たる目的とする一般病院への長期入院(いわゆる社会的入院)が生じているなど、医療サービスが非効率に提供されている面がある。」などという問題が指摘されている。

介護保険制度はこれらの両制度を再編成し、国民の共同連帯の理念に基づき、給付と負担の関係が明確な社会保険方式により社会全体で介護を支える新たな仕組みを創設し、利用者の選択により保健・医療・福祉にわたる介護サービスが総合的に利用できるようにしようとするものである。

「介護保険は高齢者介護の問題を社会全体で肩代わりする保険主義」に基づき、「女性を介護の強制(家族介護)から解放する」ものである。

また、介護保険制度の創設は「介護を医療保険から切り離すとともに、医療については医療提供体制を含む総合的かつ抜本的な医療制度の改革を実施し、治療と言う目的にふさわしい制度にするための(社会保障構造改革の)第一歩」である』としている。

 これが日本中を混乱に陥れている介護保険の創設理由とすれば、随分弱い。

何故ならば @およびAについては、この十年間、高齢化社会の到来に対応するために、国レベルでは統廃合された中核保健所を中心として「地域医療圏政策、ゴールド・プラン、新ゴールド・プラン」が策定され、市町村においては「老人福祉政策」が策定された。医療機関においても病院においては例外無く「在宅訪問看護部門体制」を作り、開業医と競合さえ辞さず活動し始めていた。

 その結果、市町村による老人福祉サービスが国民に中に定着し始めた。また、有床診療所は激減し、中小病院においても、長期入院が経営を悪化させて、療養型病床群に追い込まれていった。

 つまり、政策として誕生させたものを育てる時期であった。にも拘わらず、支援もしないで、不完全な老人福祉と極め付けて、唐突に別の制度を作ろうとしているのである。マスコミすら「市町村の老人福祉政策が不備であるから、制度を発足させたにも拘わらず、再び、市町村を保険者として責任を押し付けている。」と述べている。

事務量と必要経費を膨大にし、問題をさらに難解にしたに過ぎない。数兆円の財政支援を政府がして、国民が、監視を強くすれば、解決する問題であった。

また、Bにおいても、社会的入院は絶対的な悪で、根絶されるべきとされながら、別の制度を作って、無制限に社会的施設入所をさせるとすれば、理念の矛盾は明瞭である。(実態の明確でない)社会的入院を社会的施設入所にした事で、何の利益が国民にあるというのであろうか?

そもそも、「社会的入院は悪」という国民の合意は存在するのか?

 医療機関は性悪説、民間運営は性善説が深層に潜んでいるとすれば、余りにも無駄な負担を払わされると国民は怒るべきである。